Qiaoyan-Rosenberg米日財団は、新たに創設した「米日財団学者博士論文賞(United States-Japan Foundation Scholar Dissertation Award)」の初代受賞者に、Qiaoyan Li Rosenberg(チャオヤン・リー・ローゼンバーグ)氏を選出しました。本賞は、米国において日本を対象に書かれた社会科学分野の博士論文のうち最も優れたものを毎年表彰する制度です。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校社会学部を修了したローゼンバーグ氏は、博士論文『Labor Migration Programs in Japan: A Three-Step Pathway to Permanent Residence, but Precarious Labor for All(日本の労働移民プログラム:永住権、しかし全員にとって不安定な労働環境への三段階の道筋』により受賞しました。本論文は、日本の先進経済が少子高齢化に直面する中で、いかに移民労働者を社会に統合していくかという重要な議論に、厳密かつ時宜を得た貢献を果たすものとして高く評価されました。ローゼンバーグ氏の履歴書(英文)はこちらからご覧いただけます。

14か月にわたるフィールドワークと100件以上の詳細な聞き取り調査に基づき、博士の研究は、日本の技能実習制度および特定技能制度を通じて移住労働者が直面する困難なプロセスを明らかにしています。論文審査委員会は、本研究が「日本における労働者の主体性が移動管理との間で絶えず弁証法的な緊張関係に置かれていることを示し、制度の理念と現実の結果との大きな乖離を浮き彫りにした」と評価しました。ローゼンバーグ氏の博士論文の概要(英文)はこちらにてお読みいただけます。

審査委員会は満場一致の評価について、次のように述べています。「ローゼンバーグ博士の研究は、多様な分野から推薦された知的に刺激的で実証的に豊かな論文群の中でも際立っていました。日本語資料を緻密に用いると同時に、社会科学における重要な論争や課題に正面から切り込んでいる点が高く評価されました。」審査員のコメント全文(英文)はこちらからご覧いただけます。

受賞にあたり、ローゼンバーグ氏は「この博士論文賞をいただき、大変光栄に思います。これは、私の学術的な歩みと日本における労働移住の重要性を認めていただいたものです。移民労働者の保護と社会統合という重要な課題に、さらに注目が集まることを願っています。」とコメントしています。ローゼンバーグ氏によるビデオメッセージ(英語)はこちらでご視聴いただけます。

2025年の審査委員はサビーネ・フリューシュトック氏(カリフォルニア大学サンタバーバラ校 日本文化研究  高島浩一理事・特別教授)、デビッド・レヘニー氏(早稲田大学社会科学学術院 教授)、筒井清輝氏(スタンフォード大学 フリーマン・スポグリ国際研究所 シニア・フェロー・トモエ高橋日本研究教授・社会学教授)の3名で構成されました。

ローゼンバーグ氏は2025年よりハーバード大学ライシャワー日本研究所の博士研究員に就任し、博士論文を単行本へ発展させる準備を進めるとともに、日本の労働組合が移民労働者の労働争議解決や不安定就労の緩和に果たす役割について新たな研究を開始する予定です。

「私たちはこの賞を創設し、現在の米国における日本研究の重要性を広く認め、そしてこの分野に進む若手研究者を励ましたいと考えました」と米日財団代表理事のジェイコブ・M・スレシンジャー氏は述べています。「今回多数寄せられた高水準の応募は、この分野の学術がますます活発になり、次世代を担う研究者が育っていることを示すものです。来年はさらに幅広い分野からの応募を期待しています。」

ローゼンバーグ氏を讃え、また選考委員会をご紹介するレセプションが、2026年3月12日から15日にかけてカナダ・ブリティッシュコロンビア州バンクーバーのバンクーバー・コンベンションセンターにて開催されるアジア研究協会年次大会の場で行われます。この集まりでは、ローゼンバーグ氏による画期的な研究に光を当てるとともに、同僚や学生、また今後の応募を検討している方々に、米日財団学者博士論文賞についてさらに知っていただく機会を提供します。

本賞には2,500ドルの副賞が授与されます。日本の現代政治・経済・社会に関わる重要なテーマに対し、日本語資料と社会科学的手法を駆使して新たな知見を提示する研究を奨励することを目的としています。米日財団は今後も毎年、本賞を継続して実施していく予定です。


米日財団は、二国間関係の強化と共通課題への対応を目的とする独立の慈善団体です。次世代リーダーの育成や革新的な取り組みを支援し、関係者間の協力と交流を促すことで解決策を共に探っています。

ローゼンバーグ氏の研究について

ローゼンバーグ氏の日本における外国人技能実習制度に関する研究は、主要な学術誌および国際メディアに掲載されています。論文「The Control and Agency Dialectic of Guest Worker Programmes: Evidence from Chinese Construction Workers in Japan’s Technical Intern Training Program (TITP)」(ゲストワーカープログラムにおける統制と主体性の弁証法―日本の技能実習制度(TITP)における中国人建設労働者の事例)は、『Journal of Ethnic and Migration Studies』(民族・移民研究ジャーナル)に2024年に掲載され、UCLAテラサキ日本研究センターから2022年のNotehelfer Prize(最優秀未刊行論文賞)を受賞。2018年に実施した、2020年東京オリンピックに向けてTITPを通じて建設労働に従事する実習生のフィールドワークに基づき、日本の移民制度における国家による統制と労働者の主体性の緊張関係を検証しています。

また彼女は社会的議論にも積極的に寄与しており、ヒラリー・ホルブロー氏と共著でNikkei Asiaに 「Japan Has to Do More for Migrant Rights Than Drop ‘Intern’ Label」(「『実習生』という名称をなくすだけでは日本の移民労働者の権利は守れない)を2024年3月に発表しました。同記事では、政府が技能実習制度を廃止し新たな育成就労制度に移行しようとしているものの、人権および労働権侵害に対する深刻な懸念は引き続き残るだろうと論じています。