これまでにない難民ストーリー
WELgeeが起こす静かな革命

助成先 | WELgee (2025年受賞)
プロジェクト | 国境を越えてつなぐ 日米協働による難民人材のエンパワーメント



渡部カンコロンゴ清花氏は、もともと非営利団体を立ち上げるつもりはなかったと言います。静岡文化芸術大学の学生として、バングラデシュの先住民族地域でボランティア活動をしていたとき、ある出来事が彼女の中で大きな転機となりました。そこに暮らす多くの人々の日常に触れたときのことです。「私はその場から離れることができる。でも彼らにはそれができないと気づいたんです」と、インタビューで語ってくれました。「私は日本の国民であることで、政府に守られ、権利もあり、尊厳も保障されていた。でも彼らには、それがなかったんです」。それは、罪悪感ではなく、強い意志として彼女の心に残りました。

welgee-image3この経験と、後に日本に逃れてきた若い難民との出会いが、後のWELgee設立につながります。WELgeeは、日本における難民の受け入れを「解決すべき問題」としてではなく、「可能性を開花させるチャンス」として捉え直す非営利団体です。WELgeeが注力するのは、緊急支援や危機対応ではありません。その中心にあるのは、一見シンプルな「キャリア形成の支援」です。というのも、日本では、政府の支援をほとんど受けられない難民にとって、仕事は単なる収入源以上の意味を持ちます。就労の機会は、在留資格、生活の安定、そして新たな人生への扉となるのです。

2025年、米日財団(USJF)の助成を受けて、WELgeeは新たな取り組み「国境を越えてつなぐ 日米協働による難民人材のエンパワーメント」を立ち上げました。このプロジェクトでは、WELgeeが国内で展開してきたキャリア支援プログラムをさらに深化させるとともに、米国の難民支援団体との現地交流や共同学習を通じて連携を深めることを目指しています。これは、WELgeeにとって「成長の節目」ともいえる機会であり、日本国内の活動に加え、さらなる解決策、難民についての新しい考え方、そして自立的で有意義な就労支援の新しいかたちについて、海外の知見を取り入れる試みです。日米リーダーシップ・プログラムの2年目のデリゲートでもある渡部氏は、「この助成のおかげで、海外から新たな学びを得ながら、日本でのミッションを前進させることができます」と語ります。

仕事から生活の安定へ

WELgeeのモデルはユニークです。日本における難民認定率がわずか数パーセントに留まる中、多くの団体は、命に関わる緊急支援の提供に力を注いでいます。極めて脆弱なセーフティネットからこぼれ落ちる難民申請者の存在を考えれば、こうした団体の活動は、難民の生存を支えるために不可欠です。また、なかには司法の仕組みや政策を通じて、難民申請者の人権侵害を訴え、社会的な是正を目指す団体もあります。その中で、WELgeeは異なるアプローチを取っています。それは、難民の安定した在留資格と就労の確保を目指すというものです。たとえ幸運にも難民認定を受けられたとしても、日本社会の中で安定した生活を築き、将来の展望を描けるようになるまでには、なお多くの障壁が存在します。WELgeeでは、個別にカスタマイズされたキャリア支援、日本語学習のサポート、そして難民受け入れに前向きな企業との丁寧なマッチングを提供しています。米日財団への応募書類には、「私たちの目標は、社会が難民を『人的資源』として価値ある存在として認識し、受け入れられるような基盤を築くことです」と記されていました。

welgee-image5こうした取り組みのために、WELgeeは企業や行政と建設的に関わる方法、そして彼らの言語で語る方法を学んできました。「もちろん、私たちは難民の友人たちを単なる『人的資源』(労働力)とは見ていません。しかし、企業に難民を雇う理由を示さない限り、彼らは雇用に踏み切らないのです」。若い組織が持つ理想を、現実社会に即した戦略へと昇華させ、実効性のあるアプローチに変えていくこと──これは組織の成熟に欠かせない要素です。そして、WELgeeをより効果的な団体へと育ててきた鍵でもあります。

たとえばZ氏は、アフガニスタン出身の博士課程の学生で、祖国では法制度や都市開発に関わるキャリアを歩んでいました。来日後、WELgeeは、愛知県にある製造業の企業とZ氏をマッチングしました。その企業では経理や法務の分野でパートタイムのサポートを必要としており、勤務条件も研究活動と両立できるように設計されていました。まさに理想的なマッチングでした。このような、丁寧で個別性の高い、そして人間味あふれる支援こそが、WELgeeの活動の本質です。

また、M氏のケースも興味深い例です。母国のウクライナで美術大学を卒業し、フリーランスのクリエイターとして活動していた矢先に日本へ避難してきたイラストレーターの彼女にとって、「創造性を発揮できる仕事に就く」ことが、自分の存在意義を取り戻す道となりました。東京でWELgeeに紹介され、ソーシャルインパクトを重視するニットブランドCFCLと出会います。最初はトライアル期間からのスタートでしたが、やがて正社員として迎えられることになりました。「彼女は誠実に努力を重ねて成長し、企業側も彼女の成長を支えるチーム体制を構築しました」と話します。

WELgeeの第一の目標は就労支援ですが、渡部氏は、少なくとも日本においては、雇用主側の視点や体制の変化も必要不可欠だと語ります。そしてその変化は、難民本人だけでなく、雇用する企業、同僚、ひいては社会全体にも恩恵をもたらすのです。多様な人材を受け入れ、相互に利益を生み出す方法を社会全体が学んでいくこと。それが、より開かれた日本社会をつくる一歩になるのです。

社会に広がる 拡張可能な解決策

welgee-image4これまでに600人以上の難民がWELgeeの支援につながり、そのうち45名が、自身の情熱やスキルに見合った仕事に就いています。さらに注目すべきは、難民の採用に前向きな企業が200社以上も登録されている点です。この数字は、WELgeeがいかに企業に向けて現状を的確に伝え、共に取り組む仲間として巻き込んできたかを示しています。

現在WELgeeは、「制度の壁」の打破にも着手し始めています。ビザ要件と職務内容のミスマッチ、企業側の不安、採用までにかかる長期的なプロセスなど、日本における難民就労をめぐる構造的な課題を少しずつ掘り崩そうとしているのです。

こうした障壁について、渡部氏は冷静に見つめながらも、大きな可能性にも目を向けています。「多くの国では、移民・難民に対する否定的な感情が大きな壁となっています。国民と政府は同一ではありません。たとえ政府が外からの人々に閉鎖的であっても、世界中のNPOや企業は、オープンであることの利点を見出しています」と、応募書類でも述べています。他国の変革を担う実践者たちと出会うことによって、「就労や地域社会への統合を通じて、難民が安定した在留資格と帰属意識を得られるような革新的なアプローチを生み出す可能性が、大いにあるのです」。

米日財団の支援によって、WELgeeはUpwardly GlobalTentといった米国の先進的な難民支援団体との学びの交流機会を得る予定です。これらの連携は、単なるアイデアの交換にとどまりません。双方が互いに学び合うためのモデルともなり得るのです。「米国の先進事例から学ぶと同時に、日本での成功例を米国に還元し、私たちの日本での実践も共有できるでしょう」と渡部氏は語ります。「こうした相互的な学びによって、日米両社会にとって有益な、新たな難民支援モデルを構想することができると考えています」と続きます。

支援に値するミッション

welgee-image2WELgeeのミッションは、「一人ひとりの志を引き出し、つながりを広げ、自らの未来を描けるしくみを創ること」です。これは慈善活動ではありません。社会のインフラづくりであり、社会を形づくる営みそのものです。そしてこれはまさに、米日財団が支援を通じて後押ししたいと考える取り組みです。日本国内の喫緊の課題に対応しつつ、日米の相互理解を深め、持続可能かつ人間中心の解決策を構築するような二国間のプロジェクトなのです。

「この助成は、まさに必要なタイミングでいただくことができました。予想を超える方々から私たちのプログラムへの登録があった中で、当初予定していた支援を維持できたのは、この助成のおかげです。本当に感謝しています」と渡部氏は語ります。

日本における難民支援のニーズ、そして人材不足や社会的なニーズが高まり、非営利セクターが拡張可能で望みのある解決策を探る今──WELgeeはその応え方を静かに、しかし着実に示しています。一人一人の未来と一つ一つの仕事に丁寧に向き合い、尊厳と互いの可能性に開かれた姿勢によって生まれる未来。それが、WELgeeの描く静かな革命なのです。

 

 

WELgeeからの大切なお知らせ

welgee-image1「このたびWELgeeは、団体としてのミッションと成長をさらに推進していくため、組織体制の移行を決定しました。この変化の一環として、創設者である渡部カンコロンゴ清花氏が代表理事および理事を退任し、団体初期から活動を共にしてきた安齋耀太氏が新たに代表理事に就任いたしました。

現在、世界では1億2,000万人以上の人々が、紛争や迫害により住む場所を追われています。日本でも、難民ルーツの方々が増えており、WELgeeの担う役割はますます重要になってきていると実感しています。こうした現実を受けて、私たちはこの1年をかけて組織のあり方を見つめ直し、どのようにすればより広く、より深くインパクトを生み出せるのか、熟考と対話を重ねてきました。今回のリーダーシップ移行は、そうした過程から生まれた決断です。

今後もWELgeeは、日本で庇護を求める人々と「WITH=共にある」姿勢を大切にしながら、その方々の人生の再構築と、日本企業との協働によるソーシャルインパクトの創出に真摯に取り組んでまいります。これからも、より一層の強い意志と行動力をもって、私たちのビジョンの実現に向けて歩んでまいります。」


米日財団は、こうした重要な節目を力強く乗り越えられた渡部氏とWELgeeに心からの祝意をお送りするとともに、今後のさらなる協働を楽しみにしています。

 

  

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