トレンドと変革者たち

無償労働か 組織の原動力か?
日米比較から見えてくる課題と展望

非営利団体は、ボランティアやインターンを最大限に活用できているでしょうか?それとも、雑用係になってしまっているでしょうか?日本でもアメリカでも、非営利セクターにおいてボランティアとインターンは欠かせない存在です。しかし、彼らの原動力をいかに効果的に活かすかについては、日米ともに多くの組織が試行錯誤を続けています。上智大学でNPOマネジメントを教え、日本の非営利セクターに詳しいセラジーン・ロシート氏は、「多くの非営利団体では、インターンが持っているスキルを見極め、適切に活かすための明確な目標、体制、手続きが整っていません」と指摘します。こうしたプログラムは、計画や指導に対する十分な投資がなければ、関係者全員にとってフラストレーションの原因となりかねません。本稿では、現在の動向、共通する課題、そして新たな可能性を示す4つの成功事例を紹介しながら、ボランティアの力をより戦略的に活かす道を探ります。

日本のボランティア 災害支援からESGまで

3782249_s日本におけるボランティア活動が大きく広がったのは、1995年の阪神淡路大震災がきっかけでした。これはしばしば日本の「ボランティア元年」とも呼ばれ、この危機を契機に市民による社会参加が急増し、今日の多様で活発な非営利セクターの土台が築かれました。現在では、災害支援、環境保全、教育、高齢者ケアなど、さまざまな分野で日本の非営利団体がボランティアに支えられています。

インターンシップ・プログラムは、まだアメリカほど一般的ではありませんが、近年着実に広がりを見せています。たとえば「あしなが育英会」や「ANT-Hiroshima」では、平和構築、国際協力、教育といったテーマで、学生や若手社会人向けに体系的なプログラムを提供しています。こうしたインターンシップは、教室の外で社会課題と向き合う実践的な学びの場として、若者たちにとって貴重な機会となっています。

さらに近年注目されているのが、企業ボランティアの急成長です。2025年の業界報告によると、日本企業の67%が何らかの形で正式なボランティア制度を導入しており、その多くがESG(環境・社会・ガバナンス)やCSR(企業の社会的責任)といった目標と連動しています。コロナ禍以降の働き方の変化を受けて、ハイブリッド型やスキルベースのボランティアも徐々に広がりを見せています。

アメリカのボランティア お菓子バザーを超えて

photo-1559027615-cd4628902d4aボランティア活動は、アメリカの市民文化の中に長年根付いてきました。毎年、アメリカ人は約41億時間の奉仕活動を行っており、その経済的価値は約1,229億ドル(約18.4兆円)にも上るとされています。ボランティアは、食料配布やメンタリング、法律相談、災害対応など、多岐にわたる非営利団体の活動を支えています。

非営利セクターにおけるインターンシップは、若手人材の登竜門として広く認識されています。特に無給ポジションにおける公平性やアクセスの問題は依然として残っていますが、インターンシップはスキル習得や、社会課題に取り組む現場との出会い、キャリア探索の機会として重視されつつあります。

近年、アメリカの非営利セクターでは重要な変化が起きています。ボランティアやインターンは、日常的な業務の支援にとどまらず、グラフィックデザインやプログラミング、データ分析、政策調査など、専門的なスキルを活かした貢献が求められるようになってきました。こうしたスキルベースの支援は、多様な人材の力を引き出し、非営利組織の運営力を高める新たな潮流となっています。

共通の課題 共有される学び

国による違いはあるものの、日米の非営利団体がボランティアやインターンの受け入れに際して直面する課題には、多くの共通点があります。

  • 公平性とアクセスの問題無給のインターンシップは、経済的に余裕のない人々の参加を難しくし、社会的不平等を助長する可能性があります。特に生活費の高い東京のような都市では、3か月の無給インターンシップなどは大きな経済的負担となりえます。
  • 法的・制度的な曖昧さ:インターンやボランティアに謝礼や単位認定を行う際、雇用との法的な線引きを適切に理解し運用する必要があります。
  • 文化的・言語的な壁:国境や文化を越えるボランティア・プログラムでは、コミュニケーションや働き方、期待値の違いが課題になることがあります。
  • 力関係:特に比較的恵まれた立場にある国際ボランティアが、無意識のうちに不平等な関係性を再生産してしまう可能性があります。対等な協働関係を築くための配慮が必要です。
  • 継続的な関与の難しさ:ワークライフバランスの価値観の変化やコロナ禍の混乱などにより、長期的にボランティア活動に関与してもらうことが以前よりも難しくなっています
  • 感情的・心理的負荷:プレッシャーの高い現場や感情的に負荷のかかる環境で活動するボランティアやインターンは、燃え尽き症候群やカルチャーショック、孤立などのリスクに直面する可能性があります。

成功事例に見る有効なアプローチ

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日本 | ハンズオン東京

ハンズオン東京は、日本語と英語のバイリンガル対応によるオンラインプラットフォームを運営し、国内外のボランティアと地域の非営利団体をつないでいます。特徴は「一貫性」にあります。公園の清掃や料理教室といったすべての活動には、事前にトレーニングを受けたプロジェクト・コーディネーターが同行し、日本語と英語の両方で丁寧にサポートします。この実践的かつインクルーシブな運営により、初めてのボランティアでも安心して参加でき、成果につながりやすい仕組みが整っています。

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日本 | Place To Grow

2011年の東日本大震災を契機に誕生したPlace To Growは、地域復興とコミュニティ構築を支援する団体へと発展してきました。同団体のボランティアは、単にプロジェクトを「実施する」だけでなく、その「設計」にも関与します。たとえば、バイリンガルの絵本読み聞かせやランニングクラブなど、すべての活動が地域パートナーとともに共同で企画・実行されます。中でも特徴的なのが「コミュニティ・リエゾン」の存在です。これは、長期的に関与するボランティアが、地域のリーダーと団体の橋渡し役を担う仕組みであり、信頼構築・文化的な妥当性・持続性を支える重要な柱となっています。

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米国 | セリーズ・コミュニティ・プロジェクト

カリフォルニア州セバストポルに拠点を置くセリーズ・コミュニティ・プロジェクト(Ceres Community Project)では、10代のボランティアが、重い病を抱える人々のために、栄養バランスの取れた医療用食事を調理しています。参加者は、キッチンとガーデンの役割を交代しながら、大人のメンターの指導のもと、食品衛生・栄養・ロジスティクスに関するスキルを学びます。世代を超えたこのプログラムは、地域に即効性のある貢献をしつつ、リーダーシップと責任感を育むことに重点を置いています。

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米国 | ピア・ヘルス・エクスチェンジ

ピア・ヘルス・エクスチェンジ(Peer Health Exchange)は、大学生ボランティアが社会的に支援が届きにくい高校に出向き、健康教育の授業を行うプログラムです。授業では、栄養、メンタルヘルス、性教育などのテーマを、標準化されたエビデンスベースの教材を使って展開します。これまでに全米9都市で188,000人以上の高校生が受講しています。大学生インターンに実際の授業を担わせることで、教育実践の機会を提供するとともに、高校生にとって不可欠な知識を届ける仕組みとなっています。

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非営利団体が学べること

ボランティアやインターンを「活用する」だけでなく、「意図をもって関与させる」こと。それが成果を出す非営利団体の共通点です。上記の事例から、いくつかのベストプラクティスが見えてきます。

スキルと役割の適切なマッチング
個々の専門性や関心を活かせるポジションを設計すること。
明確な枠組みとメンター制度の導入
受け入れ時のオリエンテーションや期待値の共有、継続的なサポートが、経験の質を大きく左右します。
インクルージョンへの投資
バイリンガル対応、文化的配慮、アクセスのしやすさが、多様で強固なチームを育てます。
長期的な視点を持つこと
ボランティアやインターンは一時的な「手伝い手」ではなく、将来の仲間であり、リーダー候補でもあります。

今こそ見直しと再投資を

ボランティアやインターンは、単なる「無償の労働力」ではありません。彼らは、創造性、情熱、そして人と人をつなぐ力の源です。制度的に整備され、インクルーシブで、双方にとって有益なプログラムを築くことで、日米の非営利団体は活動の効果を高められるだけでなく、次世代のチェンジメーカーを育むことができます。

米日財団では、異文化間の市民参加が持つ力を信じています。助成金やパートナーシップを通じて、より強く、より賢く、そしてよりインクルーシブなボランティア・インターン制度を築く非営利団体を支援しています。ともにこの取り組みに参加しませんか。

 

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