トレンドと変革者たち

恐れないアドボカシー 静かに変わる非営利セクターの声

「政治的関与」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、街頭で旗を掲げ、スローガンを叫ぶ抗議者の姿かもしれません。日本では今でも「運動家」という言葉が、安保闘争の急進的な活動家のイメージと結びつきがちです。けれども、効果的なアドボカシーは必ずしも声高である必要はありません。むしろ、日本の非営利セクターでは、関係性、調査研究、そして長期的なビジョンに基づいた、より静かで文化に即した形の変革が芽生えつつあります。米国の非営利組織が長く社会に直接訴える活動を受け入れてきたのに対し、現在は両国ともに急速に変化する政治環境の中で、新しいアドボカシーの課題と機会に向き合っています。

日本の静かな影響力と戦略的転換

pexels-photo-590022日本には約5万の認定NPO法人のほか、数千にのぼる研究機関、社会的企業、福祉団体が存在します。しかし、公益法人法などの法的枠組みや文化的な慎重さが、長らく非営利団体によるアドボカシーの限界を形づくってきました。特に移民政策、憲法改正、防衛政策といった対立を招きやすいテーマでは、政治的と見なされることで「公益」資格を失うリスクがあり、グレーゾーンが広がっています。

そのため、多くの日本の非営利団体は正面からの対立を避け、政策研究や市民向けの教育活動、官僚との水面下での対話など、間接的な手法で変革を促してきました。これは一般に「対立を避け、調和や合意を重んじる文化」を反映していると考えられます。とはいえ、アドボカシーが存在しないわけではありません。新しい世代の非営利リーダーたちは、こうした価値観を現代の課題に合わせて応用し、創造的な戦略で制度改革を推し進めています。

それでも、彼らが直面する課題は少なくありません。

  • 法的曖昧さ:非営利団体のアドボカシーを明確に保護する仕組みがなく、地位や資金を危うくしない範囲が曖昧です。
  • 未整備の法的手段:公益訴訟の基盤が弱く、不公正な政策に法的に挑む道が限られています。
  • 行政によるゲートキーピング:形式的な制裁はなくとも、異論を唱える団体が助成金や審議会から排除されることがあります。
  • メディアの消極姿勢:難民の権利、LGBTQ+の平等、原子力問題に取り組む団体は、主流メディアで取り上げられにくい現状があります。
  • 文化的制約:中立性を求める社会的圧力が強く、直接的なアドボカシーは評判の毀損や寄付者離れにつながる可能性がある。

米国 分断の時代における革新

pexels-photo-6257630アメリカの非営利団体は、長らく公共の議論を形づくる重要な役割を果たしてきており、日本のように政治参加に対して同じ種類の制約を受けてきたわけではありません。しかし近年、非営利団体はより複雑で、ときに敵対的な政治環境に直面しています。2025年には、連邦政府の方針転換が生殖の権利、移民政策、気候変動アドボカシーなどを標的とし、多くの団体にとって規制上の不確実性を生み出しています

それでも非営利セクターは依然としてダイナミックで柔軟に対応しています。多くの団体がデジタル・アドボカシーに注力し、ソーシャルメディア・キャンペーン、インフルエンサーとの連携、双方向のツールを駆使して支持者を動員し、細分化されたメディア環境で存在感を保っています。連携してコアリションを築くことも重要になっており、特にメンタルヘルスや移民の権利といった繊細な分野では、非営利団体が協力して資源を共有し、効果的なメッセージを発信することが成果につながっています。草の根レベルでも、請願活動、オンライン・タウンホール、電話による一斉キャンペーンなどを通じて公共アジェンダに影響を与え続けています。政治的な不安定さが続く中でも、非営利団体に対する市民の信頼は比較的高く保たれており、分断が深まる環境の中で一定の強靭性をもたらしています。

とはいえ、アメリカのアドボカシー団体も大きな逆風に直面しています。

  • 政治的な報復:新たな連邦助成金の条件により、「分断的な概念」に関する活動を抑制する仕組みが導入されました。大統領令により、一部の連邦資金を受ける団体での研修禁止も復活しました。
  • 法的脅威:保守派の議員がIRS(内国歳入庁)に圧力をかけ、非営利団体を「党派的」として調査させる動きが強まっています。特に人種平等やジェンダー正義に取り組む団体が狙われています。
  • 州レベルでの透明性法:いくつかの州議会では、団体が「政治的」活動を行う場合に寄付者データの公開を義務づける法案が提出されており、曖昧な定義によってアドボカシー活動が萎縮する恐れがあります。
  • キャンパスでの取り締まり:大学関連のアドボカシー団体、特にパレスチナ連帯やLGBTQ+の権利に取り組む団体は、資金削減や制度的制裁に直面しています。
  • 生殖の権利への攻撃:ドブス判決以降、中絶アクセスに取り組むクリニックや教育系の非営利団体は、法的な不確実性と社会的な監視の高まりの中でも活動を続けています。

静かに、戦略的に、そして効果的に  日米の成功事例

状況は複雑ですが、両国において決して希望がないわけではありません。日本の非営利団体は、文化に根ざしたコアリション型のアドボカシーが可能であるだけでなく、ますます大きな影響を生み出せることを示しています。アメリカにおいても、アドボカシーは非営利団体のアイデンティティの中心であり、団体は抵抗と改革のための新しいモデルを発展させ続けています。

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日本 LEDGE

LEDGE は、日本初の常勤の公益訴訟専門団体
です。個別の訴訟に取り組むのではなく、法曹人材の育成、パートナーシップの構築、国境を越えたプロボノ・ネットワークの創出といった「仕組みづくり」に注力しています。現在は、被選挙権の年齢制限、人種プロファイリング、生殖の権利をめぐる訴訟に取り組んでいます。米日財団の支援を受けて、LEDGEは文化的に共鳴し、高いインパクトを持つアドボカシーのために法的手段を適応させる好例となっています。

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日本 WELgee

WELgee は、日本に暮らす難民に対してキャリア開発や職業統合のためのきめ細かな支援を行っています。語学研修や就職支援、メンター制度を通じて、難民を「負担」ではなく「貢献する人材」として位置づけ直しています。同団体は政策立案者や企業とも直接協力し、社会の認識を変え、包括的な労働構造の構築を進めています。米日財団の支援により、WELgeeは自らのモデルを米国の団体とも共有し、難民アドボカシーにおける国境を越えた連帯を強化しています。

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米国 Northeast Florida Healthy Start Coalition

アメリカでは、黒人乳児の死亡率改善を目的とした 「Hey, Mama」キャンペーンが、地域のアートやスポークンワード、文化的に共鳴するメッセージを活用し、ジャクソンビルの家族とつながりました。ソーシャルメディアや Kids Hope Alliance などとのパートナーシップにより、プログラムへの問い合わせは倍増し、地域での関与も大きく広がりました。この取り組みは、包摂的で地域に根ざしたアドボカシーが、認知度と成果の両方を高められることを示しています。

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米国 We Are Still In

また、2017年に連邦政府がパリ協定から離脱した後、数千に及ぶ非営利団体、大学、地方自治体が 「We Are Still In」連合に参加し、国家政策が逆行する中でも気候目標の達成を誓いました。分散型かつ非党派的なこのモデルは、アドボカシーの勢いを維持し、国外でも類似のネットワークを生み出しました。これは、敵対的な環境であっても、集団的な行動が国のアジェンダを形づくる力を持つことを示す事例です。

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非営利団体が学べること

長期的な関係の構築
日本でもアメリカでも、ステークホルダー、政策立案者、そして市民との持続的な信頼関係は、効果的なアドボカシーに欠かせません。
文化的文脈の考慮
大胆さの形は国によって異なります。日本では、戦略的な忍耐や水面下での対話が、公の場での対立と同じくらい力を発揮することがあります。
リサーチとストーリーテリングの活用
データに裏づけられた語りや人間中心の物語は、政治的な立場を超えて世論を動かすことができます。
戦略的な連携
連合体や法的ネットワークを組むことで、特に規模の小さい団体や新しい団体にとって、影響力を高め、リスクを分散することができます。
国境を超えた活動
WELgeeのような国際的なパートナーシップは、戦略を磨き、学びを共有し、変化のための新しい扉を開く手助けとなります。

再考するアドボカシーのあり方

アドボカシーには万能の戦略はありません。日本では、法制度の改革、企業との連携、文化的背景に根ざした働きかけによって、静かな変革が進みつつあります。アメリカでは、デジタルツールや連合体戦略が、政治的な逆風の中でも非営利団体の影響力を支えています。これらの事例が示すのは、効果的なアドボカシーは状況に応じて変化するという普遍的な真実です。

米日財団は、この進化し続ける協働的なアプローチを大切にしています。LEDGEやWELgeeのような助成先を支援することで、日米双方の非営利団体の声を強めようとしています。その声は大きくなくても、確実に届くものです。

戦略的なアドボカシーモデルを模索する団体の皆さまには、ぜひ米日財団とつながり、パートナーシップや助成の機会をご活用いただきたいと思います。相互の敬意と国境を越えた知見に根ざした変化は、より広く届くだけでなく、より深く根づくからです。

 

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