トレンドと変革者たち

情報格差の人的コスト 日本と米国が直面する同じ危機の異なる側面

ブルックリンのガラス張りの明るいオフィスでは、中規模の非営利団体で働く大学インターンが、AIを活用したダッシュボードを使い、3つの区にまたがる食料不安の指標をリアルタイムで追跡しています。寄付者には、四半期ごとに自動化されたパーソナライズドのソーシャルインパクト報告書が届けられています。一方、東京・練馬の手狭な地域センターでは、70歳の長年にわたり団体を率いてきた代表が、印鑑やファックスを用いながら、地域から寄せられた食料品の寄付を紙の台帳に手作業で集計しています。その団体は20年にわたり地域に貢献してきましたが、日本政府が補助金申請を完全デジタル化へと移行するなかで、彼女の「アナログな心」は壁に突き当たっています。

これが、デジタルトランスフォーメーション(DX)における不平等の現実です。私たちは情報格差をテクノロジーへのアクセスの問題として捉えがちですが、広く利用可能になっているデジタル資源を、組織がどれだけ最適化できるかという能力の違いでもあります。この差は構造的な障壁となり、どの組織が、そしてその組織が支えるどのコミュニティがコロナ以後の世界において生き残るのかを左右する要因になっています。

日本における「技術的負債」の危機

30335693_s日本における不平等は、「技術的負債」と呼ばれる構造に根ざしています。日本政府は長年、「2025年の崖」の到来を警告してきました。これは、老朽化したITシステムが年間最大12兆円(GDPの約2%)の経済損失をもたらす可能性があるという、経済産業省が指摘する構造的リスクです。こうした状況のなか、多くの小規模な非営利団体では、手作業中心の業務フローが新たなデジタル経済と根本的にかみ合わなくなりつつあります。

アジア全域の2,100以上のソーシャル分野の団体を調査した「Doing Good Index 2024」によると、日本の非営利団体は域内でも特に深刻なキャパシティ・ビルディングの格差に直面しています。日本の団体の66%が、キャパシティ強化のための寄付者支援を一度も受けたことがないと回答しており、これはアジアでも最も高い水準の一つです。さらに懸念されるのは、継続的な支援を受けている団体がわずか4%にとどまっている点です。アジア平均の15%と比べても大きな開きがあります。

資金不足が根本的な要因である可能性はありますが、現場で直面しているより直接的な問題は、専門性を持つ人材の不足です。そしてその傾向は改善するどころか、むしろ悪化しています。2025年に発表された日本NPOセンターのIT活用に関する調査では、ITが非営利団体の運営に不可欠となっている一方で、約90%の団体がIT人材の人数およびスキルの両面で深刻な不足を感じていると報告しています。これは、組織に求められるデジタル対応力と、それに応えるだけの実際の能力とのあいだに、持続的なギャップが存在していることを示しています。

米国における「内部キャパシティ」の危機

pexels-photo-8278873米国は先進的なテクノロジー基盤の恩恵を受けている一方で、その内部における格差は「キャパシティの危機」によって生じています。NTENによる「Nonprofit Digital Investments Report 2024」は、懸念すべきパラドックスを明らかにしています。米国の非営利団体の45%がテクノロジーへの支出が不十分であると回答しているにもかかわらず、研修費はテクノロジー関連予算全体のわずか1%しか占めていないのです。このごくわずかな人的キャパシティへの投資では、高額なソフトウェアが十分に活用されないまま放置され、非効率な業務プロセスによるスタッフのバーンアウトが常態化してしまいます。

Unit4のグローバル・ディレクター(非営利担当)であるクリス・ブリュワー氏は次のように述べています。「非営利セクターは、あらゆる支出のインパクトを証明する必要性に突き動かされ、イノベーションによって発展してきました。しかし2025年には、その課題はこれまで以上に大きくなります。デジタルトランスフォーメーションはすでに非営利団体に恩恵をもたらしていますが、ステークホルダーの支持を得るには、盤石なビジネスケースが不可欠です。」

また、585人の米国の非営利団体リーダーを対象にしたCenter for Effective Philanthropyによる「State of Nonprofits 2025」報告書によると、47%が人材確保を組織にとって最大の課題として挙げており、64%が欠員補充に困難を感じています。バーンアウト(燃え尽き症候群)の問題も深刻で、89%の非営利団体リーダーが懸念を示しています。あるリーダーは次のように語っています。「コロナ禍でコミュニティを守ろうとする強い緊張感は、その後の高まる右派からの反発からコミュニティを守ろうとする取り組みへとそのまま重なりました。これは単なるバーンアウトを超えています。人々が機能する力そのものを奪う、精神的にも身体的にも大きな消耗なのです。」

表裏一体の問題

大きく異なる文脈に置かれているにもかかわらず、日本と米国の非営利団体は、共通する危機に直面しています。日本では寄付者が事業には資金を出しても、インフラには資金を出さない傾向があります。一方、米国ではテクノロジーはいまだに投資ではなく「間接経費」として扱われることが少なくありません。日本の団体では、そもそも研修の機会そのものにアクセスできないケースが多く、66%がキャパシティ強化の支援を受けていない一方、米国の団体ではテクノロジーは導入されても、それを使いこなすための研修が伴っておらず、テクノロジー予算のうち研修はわずか1%にとどまっています。両国に共通しているのは、手作業による業務が、組織のミッションに直結する重要な仕事からスタッフの時間を奪っているという点です。American Heart Associationのレベッカ・ジョンソン氏は次のように説明しています。「トランスフォーメーションは難しいものです。なぜならトランスフォーメーションとは変化であり、変化は簡単ではないからです。」その結果は共通しています。業務を本質的に変えることのないツールが残り、最終的にその影響を受けるのはコミュニティなのです。

橋を架ける変革者たち

こうした障壁があるにもかかわらず、日米両国では変革者たちと呼べる存在が、「ソフトウェアを購入すること」から「キャパシティ開発」へと焦点を移し、橋を架けようとしています。

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日本

日本では、日本NPOセンターがNPTechイニシアティブなどの取り組みを通じて先導的な役割を果たしています。このイニシアティブでは、主要なIT企業が連携し、全国の非営利団体に対して直接的な研修支援を提供しています。デジタル分野の専門人材を派遣し、ツール改善プロジェクトを支援することで、JNPOCは団体が紙の台帳からクラウド型システムへと移行するのを後押ししています。そして、その移行が確実に機能するよう、必要な研修もあわせて提供しています。目指しているのは、デジタルツールを事務作業を担う「サポートスタッフ」のような存在へと位置づけ、人間のスタッフが直接的な支援活動により多くの時間を割けるようにすることです。

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United States

太平洋を挟んだ米国でも、テクノロジー基盤を「間接経費」ではなく、ミッションに不可欠な基盤として捉えるべきだという提言が広がっています。ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスのアルヴァ・H・テイラー氏は次のように述べています。「リーダーシップはそれを理解し、その重要性を認識しなければなりません。そしてその重要性を組織内のすべての人に伝える必要があります。」先進的な助成団体のあいだでは、事業ごとの助成だけでは組織は近代化できないという認識が広がりつつあります。デジタルの基盤を支えるためには、用途を限定しないキャパシティ強化のための助成が不可欠だと理解され始めています。

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非営利団体が学べること

太平洋の両側、そしてこのダイナミックなエコシステムのさまざまな分野で活動するリーダーたちは、テクノロジーを単なる効率化の手段ではなく、共感を可能にし、増幅するものとして捉え直そうとしています。この転換は、多くの場合、組織の優先課題そのものの見直しも伴います。具体的には、次のような提案が挙げられます。

フィランソロピスト
デジタル・キャパシティへの投資を、助成の中核的要件として位置づけること。ある米国の非営利団体リーダーは次のように述べています。「柔軟な資金は、組織が重要なプログラムを維持し、政策の変化に対応し、常に財政的不安を抱えることなくインフラに投資することを可能にします。」プログラムの基盤が十分に整っていないにもかかわらず、資金の90%を「事業」に充てるよう求めることは見直す必要があります。
テック専門職
TechSoup Japanや各地の「Hack-for-Good」チャプターなどを通じて、「プロボノCTO」としてスキルを提供すること。NTENの報告書によれば、テクノロジーに関する意思決定に最も影響を与える存在として、同業の団体や外部コンサルタントが上位に挙げられています。
政策立案者
自治体のデジタル要件を標準化すると同時に、小規模な非営利団体への移行支援を確保すること。政府サービスのデジタル化を急ぐのであれば、組織がその移行を成功させるための支援への投資も不可欠です。

デジタルをめぐる視点の転換と新たな優先課題

ソーシャルセクターにおける情報格差は、個人や単一の組織の失敗ではなく、システム全体の課題です。そして、その解決にはシステム全体へのアプローチが求められます。日本の「2025年の崖」に直面するにせよ、米国のキャパシティ危機に向き合うにせよ、問われているのは、人に投資するのか、それともプラットフォームに投資するのかという選択です。米日財団では現在、ソーシャルインパクトのエコシステム全体を支える取り組みに着手しています。小規模な団体が直面する情報格差を乗り越える一助となること、そしてより重要には、セクター全体に影響を及ぼす構造的な課題の特定と支援のあり方を再調整することを目指しています。今後の展開にもぜひご注目ください。

 

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