トレンドと変革者たち

瀬戸際の現場から 日米の地域非営利団体が生き残りと発展のために挑む闘い

日本NPOセンターの大島誠氏が代表理事に就任したとき、同団体が財政的困難に直面していました。大島氏は「財政的にも厳しい状況」が続いており、「事業の見直しと新たな取り組みを模索する 1年」となると述べています。

同じように、ナッシュビル・プライドの理事長ティナ・トゥージニャント氏が就任した際、日産を含む主要企業スポンサーが撤退したことで27万ドルの資金不足に直面しました。さらに悪天候が来場者数を減らし、財政難は深刻化。フェスティバルや地域プログラムを継続させるために25万ドルの緊急募金キャンペーンを立ち上げざるを得ませんでした。「プライドは単なる祝祭ではなく、生き残るためのものです」と、団体史上最も困難な年の一つに臨んだトゥージニャント氏は語っています。

両氏の経験は、日米で数千に及ぶ非営利団体のリーダーたちに共通するものです。これらは決して孤立した苦境ではなく、市民社会そのものを揺るがす危機の兆候なのです。地域に最も近い立場で活動するローカルおよび地域の非営利団体が、経済的プレッシャー、寄付基盤の縮小、拡大する地域ニーズの板挟みで限界に達しつつあります。こうした逼迫した状況の中でも、一部の団体は「生き残りのルール」を書き換えようとしており、よりレジリエントな未来への指針を提示しています。

日本の非営利セクターのパラドックス

fumiaki-hayashi-7TfsC_hfrAY-unsplash日本の非営利セクターには、大きな可能性がありながら十分に発揮されていない現実があります。2025年6月時点で、およそ49,319団体が特定非営利活動(NPO)法人として登録されています。数字だけを見ると充実しているように見えますが、実際には深刻な課題が隠れています。そのうち「認定」NPO法人の資格を持つのは約1,300団体に過ぎないのです。この認定を受けることで寄付金の一部に税制上の優遇措置が適用され、寄付者からの信頼も得やすくなります。

数字は現状の厳しさを物語っています。日本のNPOの約8割は、年間予算が5,000万円未満で運営されており、長期的な計画を立てたり、専門職員を雇用したりするのがほとんど不可能な状況です。多くの団体はボランティアの労力と強い使命感によって活動を続けていますが、その両方には限界があります。

非営利法人格を取得・維持するには複雑な手続きが必要で、新規参入を阻み、団体の柔軟な活動を妨げています。加えて、日本のフィランソロピー・エコシステムはまだ発展途上であり、高額寄付者や企業にとって、非営利団体を適切に評価し、長期的に支援・関係構築するための仕組みが乏しいのが現状です。

特に地方都市や農村地域、または特定分野に取り組む地域密着型の団体にとって、こうした構造的課題はより深刻です。複雑な官僚的手続きを乗り越える余力を持たない一方で、地域社会に不可欠なサービスを担わなければならないという二重の負担を抱えています。

アメリカの非営利セクターの疲弊

rosy-ko-mFFDfg60IJw-unsplashアメリカの非営利セクターは、日本とは異なるものの、同様に深刻な状況に直面しています。登録されている非営利団体は180万以上にのぼりますが、その規模の大きさは広く存在する脆弱性を覆い隠しています。半数以上の団体が予算不足や持続可能性への懸念を抱えているのです。資源の分布を見ると、米国の非営利団体のうち年間予算が500万ドル(約7.4億円)を超えるのはわずか3%であり、約6割は年間5万ドル(約740万円)未満で運営されています。

こうした団体は、かつては公的機関が担っていた教育、住宅、医療といった不可欠なサービスを引き受けるようになっていますが、連邦政府からの支援は減少し、経済の不安定さは増しています。その人間的コストは深刻で、非営利団体の職員の22%が生活必需品を賄えない状況にあります。

資金調達の環境は不確実性に満ちています。個人からの寄付は減少傾向にあり、一部の財団や地方自治体が支援を増やしているものの、支払いの遅延や資金提供者の優先順位の変化により、小規模団体にとって財務計画を立てるのはほぼ不可能となっています。2025年には広範な予算削減と資金減額により、多くの非営利団体が存続そのものを見直さざるを得なくなりました。Nonprofit Finance Fund(NFF)の2025年調査によれば、2024年を赤字決算で終えた団体は36%にのぼり、これは過去10年で最も高い数値です。また、85%が今年サービス需要の増加を予測しています。さらに、半数以上の非営利団体は手元資金が3か月分以下しかなく、政府資金に依存する団体の80%以上が資金削減を見込んでいます。NFF調査の匿名回答者の言葉を借りれば、「私たちは常に危機対応の状態にある。必要を満たすための時間も人員も資金も常に不足しており、見通しに光はない」のです。

共通する課題 重なる現実

全く異なる状況で活動しているにもかかわらず、日米の非営利団体は驚くほど似た課題に直面しています。

  • 資金の不安定さ:米国では、個人寄付の不確実性や連邦予算の縮小が団体の安定性を脅かしています。日本では寄付率が低く、税制優遇も限られているため、非営利団体はドナー疲れや単発的な資金調達に依存しやすい状況にあります。
  • 人材面での圧力:日米いずれの国でも、人材の採用・定着が難しいと報告されています。米国では低賃金により職員が燃え尽き症候群に陥り、日本では高齢ボランティアに依存し、多くの団体が事業拡大に必要な人的資源を欠いています。
  • 規制上のハードル:米国の非営利団体は州ごとの多様な規制に対応する必要がありますが、日本の規制環境はさらに制約的で、イノベーションや法的柔軟性を阻害しています。
  • 不均衡なエコシステム:日米ともに、フィランソロピー・アドバイザー、組織基盤強化のハブ、データプラットフォームといった非営利団体を支える仕組みは不十分であり、特に大都市圏以外では利用しづらい状況にあります。

レジリエンスのモデル

こうした課題にもかかわらず、革新的な団体が新たな道を切り拓いています。

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米国 United Way Worldwide

United Way Worldwideでは、規模の大きさと地域対応力のバランスを取りながら、引き続き模範を示しています。同団体は、多様なドナー層の開拓や職員支援を優先課題とし、人材育成や定着プログラムに投資することで、セクター全体に広がる燃え尽き症候群(バーンアウト)への対応を強化しています。

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米国 Narayan Seva Sansthan USA

Narayan Seva Sansthan USAは、ストーリーテリング、透明性、測定可能な成果を組み合わせて持続可能なドナー関係を築く、もうひとつの注目すべきモデルです。積極的なオンラインでの発信や成果報告を通じて、競争の激しい資金調達環境において、信頼と明確なコミュニケーションが不可欠な資産であることを示しています。

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日本 日本財団

日本財団は、従来型の資金提供者からシステム変革を促す触媒へと進化し、中小規模の非営利団体にツールや指導、信頼性を提供する社会変革推進財団(SIIF)のような中間支援組織を支援しています。このアプローチは、資金提供者と草の根団体をつなぐ「結合組織」として機能し、日本のフィランソロピー・エコシステムの拡大に寄与しています。

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日本 FoE Japan

国際環境NGO、FoE Japan(Friends of the Earth Japan)は、草の根の力が規制の制約を克服できることを示しています。1980年に設立された同団体は、継続的なボランティアの動員、多様な資金調達戦略、アドボカシーと直接行動の組み合わせを通じて、持続的な影響力を築いてきました。その活動モデルは、厳しい規制や資金制約下でも日本の非営利団体が大きなインパクトを生み出せることを証明しています。

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非営利団体が学べること

地域エコシステムの支援
中間支援組織やコミュニティ財団への支援を通じて地域のエコシステムを強化することは、小規模な非営利団体が資金、メンタリング、運営ツールにアクセスできるようにするために不可欠です。
資金源の多様化と安定化
制約の多いプログラム単位の助成ではなく、柔軟で複数年にわたる助成を通し、非営利団体はより強靭になり、長期的な計画や変化への対応が可能になります。
人的資本への投資
スタッフの定着、リーダーシップ育成、公正な報酬は単なる人事課題ではなく、非営利団体の効果性と持続可能性を高めるための戦略的必須要件です。
法的枠組みの簡素化
特に日本では、非営利法人の登録や法的分類を簡素化により、参入障壁を下げ、セクター全体の成長の促進が期待できます。
セクター横断的な協働の促進
非営利団体、政府、民間セクターの連携は、新たな資源やイノベーションを解き放つ鍵となり、特に地域レベルで大きな効果をもたらします。

選択の時

日本と米国の非営利セクターはいま、重要な岐路に立っています。地域や地方で活動し、最も身近にコミュニティを支える組織は、かつてない課題に直面しています。過重労働にあえぐスタッフ、不安定な資金、増大する地域のニーズ──警告のサインは明らかです。しかし同時に、しなやかに生き抜く団体の事例は、希望と具体的な指針を示してくれます。

政策立案者や資金提供者に向けられたメッセージは明確です。投資すべきは「プログラム」だけでなく「基盤」ということです。日本では法的手続きを簡素化し、米国では使途を限定しない資金を拡大し、さらに地域の団体が適応し、革新し、リーダーシップを発揮できるよう支えるネットワークを築くことが求められます。

非営利セクターは社会を映す存在であるだけでなく、社会を形づくる力そのものです。その働きが今後も続くかどうかは、この危機に対して大胆で持続的な行動をもって応えられるかどうかにかかっています。米日財団のような組織は、日米両国の重要な非営利エコシステムをつなぎ、協働と知識交換を促進することで両国を強化する役割を果たしていきます。パートナーシップの時はまさに今なのです。

 

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