米日財団リサーチ

論考「Leveraging Lessons from Japan: Improving US Housing Outcomes」をめぐる背景と政策的議論

著:インディヴァー・ダッタ=グプタ

本論考「Leveraging Lessons from Japan」(英文)は、2024年に米国および日本のリーダーたちと行った、日米間における社会・経済政策の相互学習に関する対話をきっかけに執筆されました。現在の米国の状況において、本論考は特に高い意義を持っています。連邦、州、地方の各レベルにおける政策決定者たちは、ケア労働や社会保険にかかる費用の増大という課題に直面しています。住宅費が所得の伸びを恒常的に上回る状況が続く中、日本の制度は有益な示唆を提供するものです。そうした日本のモデルは、バージニア州知事のアビゲイル・スパンバーガー氏やニューヨーク市長のゾーラン・マムダニ氏による近年の提案とも、意図的あるいは結果的に重なり合っています。また、イデオロギーの立場を超えて、働く人々や中間層にとって、手が届きやすく適切な住宅を需要・供給の両面から確保しようとする、これまでの幅広い取り組みとも軌を一にしています。

連邦政策が供給側を後押しする税制優遇を拡充する一方で、基幹的な社会保障プログラムの削減が進められています。その一方で、州知事や市長は、より踏み込んだ賃借人の保護や、州主導による住宅供給戦略の試行を重ねています。こうした政策環境の中で、日本の事例は、住宅供給を円滑にする政策、十分な所得支援、そして強固な賃借人の保護を組み合わせることが、住宅価格の手頃さを高め、ホームレスを抑制する上で中核的であることを示す、具体的な実証例を提供しています。

家賃凍結や賃借人の保護の強化を、公的主導による恒久的に手頃な価格の住宅20万戸の建設や、市有地の活用を迅速化する新たなタスクフォースの設置などの野心的な住宅供給目標と組み合わせようとしているマムダニ市長にとって、本論考はその戦略が持つ可能性とリスクの双方を明らかにしています。日本の経験は、強固な全国レベルの賃借人の保護が、供給の拡大を持続的に支える信頼性の高い仕組みと組み合わされるべきであることを示しています。具体的には、簡素で柔軟な用途地域制度、迅速な許認可手続き、そして魅力的な立地において大規模かつ質の高い住宅を供給できる公的または準公的な開発主体の存在です。本論考は、賃借人の保護を住宅供給と組み合わせることで意図せぬ副作用を回避しようとするマムダニ市長のアプローチを裏付けると同時に、公有地の戦略的活用、建築基準の現代化、小規模家主へのインセンティブ付与といった考え方を提示し、同市長の初期の行政措置と方向性を共有しながら、ニューヨーク市の新たな住宅政策をより一貫性のある長期モデルへと導いています。

地方自治体への新たな手段の付与、州住宅トラスト基金の拡充、立ち退き防止を柱とする「手の届くバージニア(Affordable Virginia)」アジェンダを掲げるスパンバーガー知事にとって、本論考は、土地利用改革を住宅政策および社会政策の成果と直接結びつける、州主導かつイデオロギー横断的なアプローチの妥当性を裏付けるものとなっています。日本の全国的な用途地域制度や、住宅・交通・福祉を統合的に捉えるガバナンスの枠組みは、州が調整役として果たし得る役割を具体的に示しています。すなわち、排他的な地方慣行の是正、柔軟な用途地域区分の標準化、質の高いモジュール建築やオフサイト建設の後押し、さらには州債発行権限や回転基金を活用した、混合所得型でより高密度な開発支援といった手法です。また本論考は、迅速かつ自動的に提供される所得支援や立ち退き防止プログラムが、家族の住まいを維持する上で重要であることも強調しています。これは、立ち退き削減プログラムの拡充や、優先買取権やランドトラストといった州レベルの制度を通じて住宅価格の手頃さを維持しようとする、スパンバーガー知事の政策的重点を補強するものです。

連邦レベルでは、トランプ大統領による「一つの大きく美しい法案(one big beautiful bill)」が、本論考が警鐘を鳴らす緊張関係を端的に示しています。同法案は、低所得者向け住宅税額控除(LIHTC)や関連する供給補助の拡充を進める一方で、賃借人の住宅費の支払い能力に直接影響するメディケイドや補充的栄養支援プログラム(SNAP)などのセーフティネット・プログラムに大幅な削減を加える内容となっています。本論考では、2025年予算法によるLIHTC拡充が、今後10年間で約122万戸の新たな手頃な価格の住宅を供給すると推計されている一方で、低・中所得世帯に対する所得支援や医療支援が政策的に大きく削減されることで、その効果が相殺され、家賃負担やホームレスの増加を招く可能性が高いことが明示されています。日本のモデルは、供給を促進する用途地域制度や金融支援と組み合わせて、国民皆保険と迅速かつ比較的簡素で手厚い公的扶助を整備していることが、高齢化と高い都市密度の下でも路上ホームレスを極めて低い水準に抑えている中核的要因であることを示しています。これは、給付制度を削減しながら供給側の税制優遇だけで危機を解決できるとする考え方に、明確に反するものです。

総合すると、本論考は、マムダニ市長による自治体レベルの賃借人重視政策、スパンバーガー知事の実務的な州レベルの手段、そしてトランプ政権下で進められる供給重視の連邦主義的アプローチを横断する、統一的な政策枠組みを提示しています。すなわち、多面的な戦略のみが大規模な成果をもたらし得るという点です。米国では家賃負担が過去最高水準に達し、家族世帯のホームレスが急増する中、住宅費に対する対応を求める社会的要請も高まっています。こうした状況において、日本の事例は、用途地域制度や許認可改革、公的・準公的主体による住宅開発、小規模家主への税制インセンティブ、そして強固な所得支援を組み合わせるための、実証的根拠に基づき、政治的にも応用可能な政策テンプレートを提供しています。それは、州や地方自治体が主導的を握る可能性のある分権的な連邦制度の下においても有効な、首尾一貫した国家戦略の構築を示唆するものです。

本論考(英文)はこちらからお読みいただけます

著者について

インディヴァー・「インディ」・ダッタ=グプタ氏は、ジョージタウン大学マックコート公共政策大学院客員研究員、そしてBlue Lotus Strategiesの創設者であり、財団、アドボカシー団体、研究機関に対して、社会政策の設計、ナラティブ、戦略に関する助言を行っている。専門は経済的安定と機会の向上であり、特に所得支援、医療、ケア労働、住宅政策に重点を置いている。これまでに、Center for Law and Social Policy(CLASP)の会長兼エグゼクティブ・ディレクター、ならびにGeorgetown Center on Poverty and Inequalityの共同エグゼクティブ・ディレクターを務めたほか、米国議会や政策研究分野において要職を歴任してきた。米国における貧困、不平等、社会保障をテーマとする報告書、証言、論考の著者でもある。

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