正義を一皿に 理沙とピエールが食を通じて紡ぐ新しい物語

助成先 | L+P Foundation (2025年1月受賞)
プロジェクト | 人々のためのガストロ・ディプロマシー


lp-foundation-4メディアからメニューへ 変わった物語の舞台

片山理沙氏(USJLP 2015、2018)は、これまでも常に「正義」を軸に活動してきました。言葉を通して、コミュニティ活動を通して、そして現在は「食」を通して、人々の経験や国境を越えてつながる方法を模索してきたのです。現在、夫でシェフのピエール・ティアム氏と共に進めているのは、料理のポップアップイベントや料理本、教育プログラムなどを組み合わせたプロジェクト。一見すると、メディアや人権分野でのこれまでの活動から大きく方向転換したように見えますが、本人にとってはすべて同じ仕事の延長線上にあります。大切な物語を伝え、しばしば見過ごされがちな声や伝統に光を当てることです。

物語るレシピ 文化と正義の融合

理沙氏とピエール氏は、キッチンの中でも外でも共同制作者です。二人は、アフリカ系アメリカ人と日本の食文化が、対話の中でどのように交わり、異なり、そして変化していくのかを探求しています。2023年に共著で出版した料理本では、西アフリカの風味、アフリカ系アメリカ人のソウルフード、日本の四季の美意識を融合させました。しかし、このプロジェクトは単なるレシピ集にとどまりません。一皿一皿を通じて静かに実践される、文化外交の一形態なのです。

ピエール氏は、西アフリカの伝統と栄養への意識に根ざした料理感覚を持ち込み、理沙氏は物語を紡ぐ経験、グローバルな視点、そして食を正義のための媒体とする強い信念をもたらしています。「私はMITメディアラボで、コミュニティリーダーたちと協力し、ナイロビ(ケニア)、メキシコシティ、デトロイトの研究者とつなげる活動をしていたんです」と理沙氏は語ります。その経験は、今回の新たな挑戦にも生きています。「まずはコミュニティ、次にイノベーション」という協働の枠組みです。

小さな行動が生む大きなインパクト

lp-foundation-1理沙氏とピエール氏は、自らの活動をより広い潮流の一部と捉えています。食を単なる栄養源としてではなく、対話と正義のための手段として活用する動きです。ポップアップイベントやコラボレーションを通じて、西アフリカやアフリカ系アメリカ人の料理と日本の食文化が交わる場を築いています。彼らのアプローチは意図的であり、単に食材を混ぜ合わせるのではなく、歴史や価値観が交わる場所を探るものです。季節の食材や盛り付けに対する日本の深い敬意は、この種の交流に独自の舞台を提供します。一方で、文化的な融合はまだ比較的珍しく、この対比が彼らの活動をより必要なものにしています。

彼らのポップアップは、こうした目標を移動式で体現するものです。レシピの試作の場であると同時に、すべての食材に歴史があり、すべての皿が会話を生む物語空間でもあります。ピエール氏の言葉を借りれば、その料理は「栄養になるだけでなく、文化的にも有益」です。理沙氏もこう付け加えます。「私たちはフードジャスティスや地域社会との関わりを意識しています。高品質な食事を、食材の出自を尊重しながら誰もが手にできるようにすることが私たちの目標です。」

勢いを生んだ支援

lp-foundation-3そこに、大きな違いをもたらしたのが支援です。米日財団からの助成金は、財政的な余裕だけでなく心理的な余裕も与え、重要な一歩を踏み出すきっかけとなりました。「この助成金でプロジェクトマネージャーとグラフィックデザイナーを雇い、とても美しいピッチデックを作ることができました。」さらに、歌手リアーナ氏の非営利団体立ち上げに携わった経験を持つ、信頼できる協力者ジャスティン・ルーカス氏を迎えることもできました。たとえ規模は小さくても、資源は本当の意味での勢いを生み出します。「この助成金がなければ、こうした勢いは決して生まれなかったでしょう」と理沙氏は語ります。助成により、会場選びやパートナーシップ、地域との関わりについて、より広い視野で考えることができるようになりました。現在はポップアップイベントを計画し、まずはニューヨーク市から活動をより幅広い観客へと広げようとしています。

彼らは急速な拡大や商業化を目指してはいません。その代わりに、文化と文化、人と人、そして「食が果たせる役割」という考え方同士のつながりを築いています。このプロジェクトは、物語性、教育、起業精神を融合させた文化的ルーツを持つ料理活動という、国際的に広がりを見せる潮流の一部です。ヨーロッパの難民シェフによるサパークラブから、米国の先住民によるポップアップまで、この分野ではアイデンティティは単に表現されるだけでなく、盛り付けられ、共有され、味わわれているのです。

周縁から中心へ

lp-foundation-2日本において、この活動は特別な意味を持ちます。食の伝統は深く根付いていますが、異文化間の融合は多くの場合、静かに周縁で行われます。リサ氏とピエール氏の活動は、その周縁を中心へと近づける試みです。アフリカのスパイスで味付けした焼き鳥や、アフリカの穀物を使った日本のお粥といった料理は、単なる巧みな組み合わせではありません。それは、見慣れた食材を異なる文化の視点から見つめ直す招待状なのです。

完璧に順風満帆な道のりともいきません。「たとえ毎年十分な予算があったとしても、その資金を集め続け、チームを育て続け、コストを相殺し続けなければなりません」と理沙氏は語ります。これは非営利やクリエイティブ分野でよく聞かれる課題であり、介護者、フリーランサー、初めて事業を立ち上げる人といった立場のビジョナリーにとって、柔軟な資金がいかに重要かを物語っています。

それでも、会話のトーンが落ち込むことはありません。理沙氏の声からも、ピエール氏の計画からも、そして二人の活動全体からも、最もはっきりと伝わってくるのは「決意」です。これは単なる副業ではなく、新しい働き方であり、新しい共有の方法であり、新しいアドボカシーの形です。

彼らの料理はディアスポラと記憶、敬意と再創造の物語を語ります。そして、その物語はまだ始まったばかりです。

 

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