トレンドと変革者たち

日本の寄付の今 そしてこれから
① 法律上だけではない資格の問題

米国では、一定の要件を満たすと非営利団体はIRS(内国歳入庁)に501(c)(3)の認定申請を行うことができ、この認定を受けると、寄付者は寄付金控除を受けることができます。この制度は広く知られ、比較的スムーズに活用されています。

一方、日本にはこれに直接対応する制度はありません。代わりに、寄付控除を受けるための「公益性のある団体」としての認定は、いくつもの異なる法的カテゴリーにまたがって定められており、それぞれが複雑な申請要件を伴っています。たとえば、税控除の対象となるには、公益社団法人や公益財団法人、あるいは一定の要件を満たす認定NPO法人でなければなりません。

「法律制度や手続きが細かくかつ複雑であるため、新たな非営利法人の設立は限られたままである」(5)

2023年時点で、日本で寄付控除の対象となる非営利団体は1万1,000団体余り。一方、米国では150万以上の501(c)(3)団体が登録されています(19)。

この大きな差には、制度設計上の問題も影響しています。たとえば、2020~2023年の間、公益社団・財団法人としての新規認定率は非常に低く、全体の認定率は35%未満にとどまりました。その結果、日本では単に団体数が少ないというだけでなく、イノベーションの担い手となる新規団体の創出が困難な状況となっています。多くの非営利団体は小規模で、ボランティア中心の運営であり、組織の拡大や評価体制の整備、アドボカシー活動などに投資できる余力が限られています。認定NPO法人の約80%が、年間予算5,000万円(約33万3,000ドル)未満で運営されているのです。

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リスクを取りにくい環境

寄付を支える仕組み、「フィランソロピーのインフラ」とも呼ばれるエコシステムは、日本ではまだ発展途上にあります。寄付者が団体を評価するための信頼できる情報源は限られており、米国の「Charity Navigator」や「Guidestar」のような広く認知された情報プラットフォームも存在しません。

また、富裕層によるフィランソロピーへの関心は高まりを見せ、いくつかの専門サービスもすでに立ち上がっていますが、日本ではようやく、富裕層や企業の寄付戦略をサポートするフィランソロピー・アドバイザーの育成が始まったばかりです。こうした中間支援者は、米国では一般的な存在であり、資金と社会課題をつなぐ上で重要な役割を果たしています。彼らが存在しない状況では、寄付者は自らの判断で手探りで寄付先を探さざるを得ないのです。

「フィランソロピー・アドバイザーや第三者評価機関など、専門的な人材や情報面での支援的エコシステムが弱い」(5)

このような支援の欠如は、特に増加傾向にある日本の富裕層において顕著です。寄付をしたい気持ちはあっても、「何から始めればよいのか」「どこに寄付すればよいのか」「誰を信頼してよいのか」が分からないという声が多く聞かれます。

ふるさと納税──賢い制度でも残る課題

こうした中で、日本にはユニークな仕組みがあります。それがふるさと納税です。この制度は、納税者が現在の居住地ではなく、自分の「ふるさと」や応援したい自治体に対して寄付というかたちで税を納めることを可能にするもので、2008年に導入されました。寄付者は手厚い税控除を受けられるうえに、返礼品として地元の特産品や農産物を受け取ることができるため、非常に高い人気を誇ります。

実際、ふるさと納税は日本における個人寄付全体の過半数を占めており、2023年には寄付総額が1兆円(約68億ドル)を超えました。しかしこの成功は、他方で課題も残ります(61)。

たとえば、認定NPO法人への寄付は最大で約50%の税控除にとどまるのに対し、ふるさと納税ではほぼ100%に加え返礼品も付与されるため、全国規模でソーシャルな課題に取り組む団体への寄付が相対的に減少するリスクがあります。すなわち、人々は「寄付」しているものの、その多くが非営利団体ではなく、ソーシャルインパクトより制度上のインセンティブによって動かされたものなのです。

もっとも、最近ではこの仕組みをソーシャルな目的に再活用しようとする自治体の取り組みも始まっています。たとえば東京都渋谷区や福岡市などでは、ふるさと納税を通じて特定のNPO法人を指定して寄付できる制度を導入しています。これは規模こそ小さいものの、この制度を公共の利益に再接続するための有望な一歩といえるでしょう。

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伝統と革新の間にある財団

本報告書が示すとおり、財団を取り巻く環境にも、日米間で大きなスケールの違いがあります。たとえば、米国にはおよそ10万の財団が存在するのに対し、日本には約3,000しかありません。国際交流基金によると、日本では2019年には985の財団が約1,195億円(約8億ドル)を助成しましたが、同年における米国の財団による助成総額は756.9億ドル(約10.7兆円)に上りました。

多くの日本の財団は、数十年前に設立され、主に学術研究や奨学金支援を目的としたものです。現在においても、広義のソーシャルセクターにおける非営利団体との協働は、限定的であるケースが多いのが現状です。さらに影響しているのは制度面における制約です。たとえば、財団が資産を積み立てたり、剰余金を持つことには制限があり、中長期的な計画やリスクテイクが難しいという声もあります。

こうした違いから、米国では財団がソーシャルセクターの牽引役となっているのに対し、日本ではその役割がまだ限られています。歴史的な背景、制度設計、フィランスロピーに関する法的枠組みに全般的な違いがあるのです。

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※上記の「財団数」は、公益財団法人・一般財団法人を含む「法人格としての総数」を示しており、事業型財団も含まれます。助成財団のみで見た場合は約3,000程度とされますが、法的区分が異なるため、日米の数値は厳密には同一条件ではなく、あくまで参考程度であることにご留意ください。

なぜ、これが重要なのか?

こうした制度や構造の違いは、一見すると行政的な話に思えるかもしれません。しかし実際には、その国の社会がどのように重要な課題を解決するかに直結しています。貧困、不平等、教育格差、高齢化、災害対応、気候変動──これらの分野で、他国では非営利団体が積極的な役割を担っていますが、日本ではまだその役割を十分に果たせていないのが現状です。

本来、非営利団体は行政の限界を補完する存在として期待されるものですが、日本のソーシャルセクターがリスクを取れず、成長できず、資金を集められない状況にある限り、その役割を担うのは困難です。

しかし、変化の兆しは確かにあります。次回のシリーズでは、休眠預金、インパクト投資、セクター横断的なパートナーシップ、新しい世代の起業家型財団など、日本のフィランソロピーを再定義する新たなツールや潮流について取り上げます。

まずは、数字の裏には真の可能性が秘められていることを心に留めておきましょう。

「ソーシャルセクターの各ステークホルダーを支えるエコシステムを強化することで、セクター自体がソーシャルイノベーションを生み出す中核的な存在となる」(5)


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