助成先:Center for Independent Documentary (2024)
プロジェクト:Diamond Diplomacy
「野球はただのスポーツではありません。歴史をつくり、人と人との相互理解を育んできた共通の情熱なんです。」 そう語るのは、長編ドキュメンタリー映画『Diamond Diplomacy(ダイヤモンド・ディプロマシー)』の監督、ユリコ・ガモウ・ロマー氏。本作は、野球を通じて築かれてきた日本とアメリカの人と人とのつながりを通じた草の根外交の歴史を描いた作品です。スポーツ史と文化交流を融合させることで、100年以上にわたって政治的・文化的な違いを超えて日米を結びつけてきた野球の力を、豊かな物語として伝えています。
映画監督としての道のり
ロマー氏が『ダイヤモンド・ディプロマシー』の構想を抱いた背景には、日米関係に対する深い関心と、物語の持つ相互理解を生む力への信念がありました。以前には、女性として初めて、柔道の最高段位である十段を授与された福田敬子氏の生涯を描いたドキュメンタリー『Mrs. Judo: Be Strong, Be Gentle, Be Beautiful』で高い評価を受けており、その作品に対して米日財団が支援を行ったことが、次なる日米文化交流のプロジェクトにつながっていきました。
『ダイヤモンド・ディプロマシー』の出発点となったのは、意外な人物の一言でした。かつてパシフィック・リーグのサンフランシスコ・シールズで活躍し、マッカーサー率いる戦後の日本で外交的な役割を果たした元選手を父に持つデイブ・デンプシー氏が語ったエピソードです。 「1949年に彼のお父さんがチームと一緒に来日した話を聞いて、これは単なる野球の話ではなく、人と人とのつながり、外交の話なんだと気づいたんです」とロマー氏は振り返ります。
1872年、米国人教師によって日本に野球が紹介されてから、イチロー選手や大谷翔平選手のようなスターが日米両国のファンを魅了するまで、野球は日米関係を映し出すレンズとなってきました。
フィールドでの課題
映画の構想が明確になってからも、制作には多くの困難が立ちはだかりました。なかでも最大の課題の一つは資金調達でした。「米日財団からの最初の助成金がなければ、この映画は実現しなかったと思います」とロマー氏は語ります。この初期資金によって、アーカイブ映像の収集、インタビューやイベントの撮影、物語の構成という、ドキュメンタリー制作の基盤を築くことができたといいます。
しかし、同財団からの助成金があっても金銭的課題は残っていました。「クラウドファンディングで4万ドル(約600万円)を集めることには幸いにも成功しましたが、この規模のドキュメンタリーにとってはほんの一部でした」とロマー氏は話します。最終的には全米人文科学基金(NEH)から60万ドル(約9000万円)の助成を受けることで、ようやく本格的な展開が可能になりました。それでも他の課題がまだ立ちはだかっていました。
インディペンデント映画であるこの作品にとって、交渉面や金銭面で特に大きな壁となったのは、メジャーリーグ(MLB)のライセンス取得でした。 「MLBの協力なしではこの映画は完成できないと気づきました」とロマー氏は語ります。サンフランシスコ・ジャイアンツでの村上雅則のゲームなどの歴史的な試合映像や球場での撮影シーンを使用するためには、ライセンス取得のための根気強さ、交渉、そして膨大な費用が必要だったのです。「MLBの球場で自分たちで撮影した映像でさえ、ライセンスの取得が必要でした」と振り返ります。
野球がつないだ外交の力
数々の困難を乗り越え、『ダイヤモンド・ディプロマシー』は今、スポーツが文化外交の架け橋となる可能性を示す作品として結実しようとしています。本作では、例えば1934年のベーブ・ルースによる来日ツアーの様子が描かれています。政治的な緊張が高まりつつあった時期にもかかわらず、ルース選手の圧倒的なパフォーマンスとカリスマ性が、日本国内での野球人気を決定づけた重要な瞬間となりました。
また、1964年に村上雅則選手がメジャーリーグで初登板した歴史的なシーンも取り上げられています。彼の登場は、日米野球交流における象徴的な一歩となりました。
「野球は、世界共通の言語だと思います。国境や文化の壁を越えて、人と人をつなぐ力があるんです」。このロマー氏の言葉こそが、『ダイヤモンド・ディプロマシー』の根底に流れる想いです。条約や貿易協定ではなく、「ゲーム」への共通の愛好心を通じて築かれた日米のつながりを、ロマー氏は映像で語ります。
照らされた歴史の陰にある物語
『ダイヤモンド・ディプロマシー』は、よく知られた歴史的瞬間だけでなく、日本の戦後復興における野球の役割など、見過ごされがちなエピソードにも光を当てています。たとえば、マッカーサーがGHQの一環として米国野球チームを派遣したことは、野球が信頼と再生のためのツールとして機能した良い例です。
また、アメリカと日本における野球文化の違いも、映画の中で丁寧に描かれています。アメリカでは個人のパフォーマンスや華やかさが重視されるのに対し、日本ではチームワークや規律が重要視されるといった対比は、それぞれの文化的価値観を明らかにしているのです。
未来へ向けて
現在、映画は完成に向けて最終段階にあり、今後は国際映画祭への出品や、日米両国でのコミュニティ上映会の開催を通し、世界中の観客に『ダイヤモンド・ディプロマシー』を共有することをロマー氏は楽しみにしていると言います。上映会を通じてスポーツ外交の力を再認識し、新たな対話や協働のきっかけが生まれることを願っているそうです。
教育的な活用の可能性も視野に入れており、博物館や学校、文化機関との連携によって、『ダイヤモンド・ディプロマシー』を歴史・文化・国際理解を学ぶ教材としても展開していく予定もあると話します。
「この映画は、ただの野球の話ではありません。人と人との関係の話なんです。ゲームの力で心が通い、社会が動く——そんな瞬間を伝えたいと思っています」
米日財団による初期の支援、そしてロマー氏自身の情熱によって、『ダイヤモンド・ディプロマシー』は誕生しました。野球を愛する心が、文化をつなぎ、時代を越えて人々を動かしていくその姿を、私たちにそっと教えてくれる作品です。