米日財団は、米日リーダーシップ・プログラム(USJLP)ネットワークのメンバーによるプロジェクトを対象とした、第2回ソーシャルインパクト・スタイペンドの助成先を発表しました。今年度の助成対象となったプロジェクトは、気候変動、誤情報、ジェンダーバイアス、防災など、多岐にわたる社会課題への影響を目指しています。
このスタイペンド・プログラムは、USJLPフェローおよびデリゲートがミッション主導型のプロジェクトに取り組むことを奨励する目的で、2024年に創設されました。選ばれたメンバーには、最大1万ドル(約154万円)のシード資金が提供され、より大規模な取り組みの実現可能性を探ることができます。
2025年度は、26件の応募(計35名)から選考が行われ、18名のフェローおよびデリゲートによる11件のプロジェクトが採択されました。
今回の採択者には、2001年に参加したフェローから今年新たに参加したデリゲートまで、USJLPの26年にわたる歴史を代表する多様なメンバーが含まれています。
2025年度のスタイペンド・プロジェクト一覧は以下の通りです。
米日財団の影響力の強化 助成先の能力構築と資金調達を高めるための10の提言
ジンジャー・チョイ(2014, 15)
本プロジェクトは、米日財団が非営利助成先の持続可能性と成長をより効果的に支援するための、10の実践的な提言をまとめる研究プロジェクトです。非営利組織の成功に欠かせない2つの柱、すなわち戦略的方向性と資金調達力に焦点を当てます。提言は、規模や活動範囲、発展段階を問わずすべての助成先に役立つ内容とし、各組織が成長に必要なツール、リソース、戦略にアクセスできるようにすることを目指します。
デジタル守破離 ソーシャルインパクトのための文化的フレームワーク
ヘンリー・ジェイク・フォアマン(2025年度 1年目デリゲート)
「守破離(しゅはり)」とは、伝統を守る(守)、そこから革新する(破)、さらに新たな形に昇華する(離)という、日本の修練に関する概念です。本プロジェクトでは、この思想を米日リーダーシップ・プログラム(USJLP)およびフェローが運営するソーシャル・エンタープライズのデジタル変革に応用します。その実現のために、形成期(目標設定)、規範期(データ収集)、統合期(モデル構築)、変革期(評価と検証)という4段階の厳密なプロセスを採用します。
物語による民主主義 日米におけるナラティブの力の構築と誤情報への対抗
デイブ・カベル、セラ・コウラバダラ(2025年度1年目デリゲート)
高度な誤情報が氾濫する時代において、民主主義は政策や武力だけでなく、「物語」によっても侵食されています。本プロジェクトでは、真実に基づく力強いストーリーテリングがいかに虚偽のナラティブに対抗し、民主主義的価値を強化できるかを探究します。プロジェクトリーダーの2名は、非営利団体のリーダー、政策立案者、教育者、各種機関、新たなチェンジメーカーらとともに、日本で一連のストーリーテリング・ワークショップを共同開催します。これにより、真実と民主主義を守るために価値観に基づいた共鳴性のある物語を発信できる市民社会の担い手を育成する、日米間の持続的なストーリーテリング・ネットワークの基盤を築きます。このプロジェクトは、日本の市民社会の役割がまだ十分に理解されておらず、明確なストーリーテリングに関する知見や手法が限られている現状を踏まえて始まります。こうした空白は、反民主主義的な勢力によって利用されているのです。本プロジェクトのワークショップは、日本のリーダーがより効果的な物語を語る力を育み、反民主主義の動きがより進んでいる米国での類似プロジェクトにも示唆を与えることを目的としています。
日本のメディアにおける女性の代表性向上 SheSourceとの日米共同プロジェクト
岡本 峰子(2003, 04)、溝上 由夏(2024, 25)
日本のメディアでは、ニュースや公共討論における女性専門家の登場が依然として少なく、ジェンダーバイアスを強化し、多様な視点の発信を制限しています。これに対し、米国ではウィメンズ・メディア・センターが運営するデータベース「SheSource」のように、女性の専門家とジャーナリストをつなぎ、メディアにおける女性の声を広げる仕組みが確立されています。本プロジェクトでは、2024年11月に正式設立された日本女性記者協会(JWJA)とSheSourceの連携を通じて、日本における類似システムの実現可能性を探ります。
変化する世界における防災力の強化 日米の過去からの教訓と未来への投資
クロエ・デムロフスキー(2018, 19)、小谷 瑠以(2013, 14)、星野 俊也(2001, 02)
米国と日本は、防災(DRR)の分野で世界をリードしており、類似したリスク構造を持つことから、両国間のピア・ラーニング(相互学習)は政策決定者にとって大きな価値を持ちます。両国は強固な制度を有している一方で、地域レベルの能力、公民連携、イノベーションの防災計画への統合といった分野において、依然として課題が残っています。これらの要素は経済競争力や投資のあり方にも影響を及ぼしています。こうした課題に対処するには、大規模な行動と、意思決定者が適切な投資判断を行うためのさらなる研究が必要です。本プロジェクトは、関係者との対話を通じてこの分野におけるニーズと意欲を探り、日米間の相互学習を促進するための探索的な第一歩となることを目指します。
スマートシティ、政策、コミュニティ ポモナ大学ワークショップ
トム・レ(2022, 23)、西村 邦裕(2019, 22)、原口 正彦(2022, 23)
本プロジェクトは、日本、米国、そして世界全体で進行する高齢化および人口減少に対し、スマートシティの活用をどのように進めることができるかを探究するものです。ポモナ大学において、リベラルアーツ的視点を重視した政策ワークショップを開催し、日本のスマートシティ専門家と学生が協働して、政策提言と持続的な社会的関与のための青写真を作成します。ワークショップ終了後には、生成AIを活用して包括的な報告書をまとめ、本プロジェクト特化の「Prof Talk」ポッドキャストを制作します。本プロジェクトを出発点として、査読付き論文、政策ノート、日本の教育機関でのワークショップ、官民・地域の連携などを通じ、スマートシティ、人口動態、ガバナンスに関する広範な議論を展開することを目指します。
日本・米国の災害および紛争対応に向けた地方外科医養成トレーニング
稲葉 基高(2023, 24)
日本では地方の外科医不足が深刻化しており、基礎的な外科医療へのアクセスが脅かされ、都市と地方の医療格差が拡大しています。米国では、限られた医療資源の中で幅広い手術を行える外科医を育成する体系的な地方外科医(Rural General Surgery)養成プログラムを通じて、同様の課題に取り組んできました。本プロジェクトでは、こうした米国の先行事例を踏まえ、日本における地方外科医養成モデルを設計するための包括的なスコーピング調査を実施します。その中で、米国のプログラムから得られた知見を取り入れるとともに、災害および紛争時の外科対応力の強化も視野に入れます。
グラウンド・シフト・スタジオ
チェルシー・リッター=ソロネン(2024, 25)
気候危機の進行に伴い都市の気温が上昇する中、ヒートアイランド現象の悪影響を軽減するためには、想像力と緊急性を兼ね備えた対策が求められています。「グラウンド・シフト・スタジオ」は、チャーク・ライオット(Chalk Riot)が新たに立ち上げた取り組みであり、日本の地表冷却戦略を調査し、その要素を米国の都市計画に創造的かつ公平で文化的背景を踏まえた形で応用する可能性を探ります。
日米フューチャー・オブ・抹茶インキュベーター
ロシュニ・ニロディ(2022, 25)、名波 透(2024, 25)
「日米フューチャー・オブ・抹茶・インキュベーター」は、持続可能な抹茶生産の強化と、日米間における新たな健康研究および地域交流の促進という、喫緊の国際的課題に応える越境型のパイロット・イニシアティブです。本プロジェクトでは、茶の栽培、日本の伝統的薬用素材、そして地方創生の戦略がどのように交差し、社会的・経済的課題の解決に貢献できるかを、1年間にわたって探究します。
マンガ・アカデミー
コフィ・バゼル=スミス(2025年度1年目デリゲート)
「グローバル・マンガ・アカデミー」は、日本のマンガ業界と直接つながりを持つ、米国初の全国規模での専門的なマンガ制作教育プログラムです。本プログラムは2つのトラックで展開されます。トラックAでは、マンガの描き方や物語構成、初級日本語、美学、業界実践を学ぶオンラインカリキュラムを提供します。受講者は専門的水準の作品を制作し、希望者はプロによるレビューを受けることも可能です。トラックBは、日本で実施される競争的なサマープログラムです。スタイペンドによる支援は、トラックAの立ち上げを目的とし、授業ユニットの提供、ウェブサイトの設計、メディアキットの制作、単位認定および奨学金制度の整備を含みます。
カフェ・ジョワイユ東京拠点プロジェクト
田中 泉(2016, 19)
日本では、ダウン症のある人々への理解と支援が少しずつ進んでいる一方で、包摂的な就労環境は依然として十分に整っておらず、「働きたい」という思いを持つ人々への支援も限られています。働くことは、ダウン症のある人々にとって自己実現の機会であると同時に、社会に根強く残る偏見を打ち破るための大切な一歩でもあります。 本プロジェクトは、ダウン症のある人々が運営する非営利カフェ「CAFÉ JOYEUX(カフェ・ジョワイユ)」の日本版を、東京中心部に設立することを目指しています。単に「障害のある人が働く場」ではなく、誰にとっても居心地のよい場所をつくることを目指して。ニューヨークやフランスにも拠点を持つこのカフェを通じて、障害への理解と新たな支援のあり方について、日本と米国が互いに学び合う契機となることを期待しています。